ノーベル賞受賞者の大隅良典さんの妻・萬里子さんは、
同じ分野の研究者でもあり、公私共に、大隅さんを支えたという。
「成功の陰には良妻あり」という話、なのかな。
ただ、偉大な男の陰には、常に良き妻がいる、わけではない。
哲学者・ソクラテスの妻、クサンチッペは歴史に残る悪妻として知られている。
ソクラテスは一冊も著作を残していないので、
悪妻に描いたのは周りの人間なのだけど、
とにかく、人類史に輝く哲人・ソクラテスの価値を理解しない、
悪妻だったらしい。
夏目漱石の妻も悪妻という話がある。
もともと上流階級のお嬢様で家事が苦手な上に、ヒステリック。
漱石の周りにいた弟子たちからは評判が悪く、
漱石の没後10年に、漱石との思い出を本として出版した折には、
自分ばかり良く書いていると、
有識者や門下生から「悪妻」呼ばわりされたという。
ただ、日本文学の未来を一身に背負っていた漱石は神経症で、
妻や子どもによく手をあげる、DV夫だった。
現代なら、世間から相当なバッシングを受けていたことだろう。
(漱石の時代にSNSがなくて本当に良かった・・・)
漱石の娘は、子どもの頃、何度も
「あんなに怖いなら、そしてあんなにお母様をひどい目にあわせるなら、
いっそお父様なんか死んでしまった方が良い」
と思ったという。
そして、
「鏡子(漱石の妻)だから、あの漱石とやってこれたと
褒めてあげたいほどのことがたくさんあった」とも。
解剖学者の養老先生は、
宗教が明らかな形で生活に入ってこない日本では、
夫婦関係が、宗教の役割をしていると、どこかで言っていた。
つまり、夫婦生活という不条理な毎日の中で、
人は、忍耐を学び、我慢を学び、折り合いをつけることを学んでいくと。
夫婦関係によって日本人は、人間としての成長を遂げているのだ、と。
悪妻と毎日を暮らすソクラテスは、
悪妻との生活の中で、様々な「哲学」を見出していったのかもしれない。
ただ、ソクラテスは歴史に残る哲学者ではあったが、
稼ぎとなる定職を持たず、妻の実家の財産で暮らす、いわば、ヒモだった。
悪妻・クサンチッペにしても、悪妻・夏目鏡子にしても、
ヒモやDV夫に愛想を尽かさずに、
最後まで寄り添ったという意味では、「良妻」だった。
二人とも「ヒステリック持ち」だったと歴史は伝えるが、
100年後も2000年後も名前の残る変人と同じ屋根の下で暮らして、
気がおかしくならない方がおかしい。
悪妻か良妻かは、本やテレビ越しには、わからない。
悪妻か良妻か、「悪夫」か「良夫」か、
本当のところは、当人どうしにしか、わからない。
夫婦関係は、哲学史や文学史に関係ない、
どこまでいっても、パーソナルなものだ。
コメント